「ミッドナイトスワン」の内田英治監督が阿部寛を主演に迎えたヒューマンドラマ。警察音楽隊のフラッシュモブ演奏に着想を得た内田監督が、最前線の刑事から警察音楽隊に異動させられた男の奮闘をオリジナル脚本で描き出す。部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を問わない捜査一課のベテラン刑事・成瀬司。高齢者を狙ったアポ電強盗事件を捜査する中で、令状も取らず強引な捜査を繰り返した結果、広報課内の音楽隊への異動を言い渡されてしまう。不本意ながらも音楽隊を訪れる成瀬だったが、そこにいたのは覇気のない隊員ばかりで……。音楽隊のトランペット奏者・来島春子を清野菜名、サックス奏者・北村裕司を高杉真宙、捜査一課の若手刑事・坂本祥太を磯村勇斗が演じる。
異動辞令は音楽隊!評論(20)
笑もあり、感動もあり。
外したくなければこれ。
しかし、磯村勇斗は毎回良いですね。
とある理由で、今まで刑事30年で過ごしていたある主人公が、突然音楽隊に飛ばされる、というお話。
詳しいところはネタバレありでもなしでも書かれている方が多いし、何度も書かれていることを私が書いても読みづらいだけなので避けておきます。
また、多くの方が指摘されている「ラストへの収束が変」についても、もっと詳しくいえば法律的にみても「もっと」変なのですが、そこにつっこむとネタバレになってしまいます。
今週(8 /27)は本作か「あきらとアキラ」(どっちがひらがなだっけ?)がどうしても対抗本命できそうな状況で(そして、See for me が続く感じ?)、あまりネタバレになるところは書かないようにします。
一方で、この映画でもでてくる「ある事項」については誤解も多いので、ここも触れておきます。
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(減点0.7) やはり、ラストあたりのやり方が珍妙で、普通にみても法律の知識があっても「あれはダメでしょうのパターンです(最悪、そのあとの裁判が正常に進行しなくなります)」。多くの方が書かれていた通りですが、より専門的にいうと、勝手に自らおもうところがあっても、それを(法律の定まった方法によらず)行使してはいけない、というような部分になります(最悪、裁判の遅延等が発生してしまいます)
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(▼参考/ 交通反則金の通告と裁判のお話)
・ 映画ではちらっと「わが課のポイントをあげる」みたいなところでちらっと出てきたり、何かしらやっているシーンがところどころあります。
車の運転においては、どうしても「道路交通法」違反になるような事案は、他の事案と比べても圧倒的に多いのです。
このとき、特に軽微またはそれに準じるもののについては、法ににのっとって「交通反則金の通告」を受けることがあります。これは結局のところ「もし自分で反則金を納付したら、警察は刑事裁判で起訴はしない」ということを意味するものです。
ところが、ある「交通反則金の通告」について、どうみても警察のほうが間違っている、争いたい、という場合、どうすればよいか、というと、「受け取るだけ受け取って放置し、起訴されたらそこで自分の言い分を述べる」のです。刑事事件での扱いになります。
ところが、ある人が任意にそれに従った(=警察がいう反則金を納付)した後、さらに「警察の対応が間違っている」として行政事件訴訟法(行訴法)で争えるか?というと「争えない」というのが最高裁の立場です(昭和57.7.15)です。
要は、「多数発生する交通違反に対して簡便な方法を用意している以上、それに任意に従って反則金を収めて(=警察の言い分を認めたことになる)、そのあとに「その警察の対応がおかしい」として行訴法で争えるのだとすると、「本来刑事事件でやるべき内容を行訴法でやるようなことになってしまい、法が想定する範囲を超えてしまうし、その結果、「刑事事件」と「行政事件」はそもそも別のものであるのに事件の類型が想定していないものを裁判しなければならなくなる、というのは、刑事訴訟法や行政事件訴訟法が各々想定する範囲を超えてしまう」というものです(昭和57.7.15判例。詳しく読みたい方は最高裁のHPで)。
急いで人生を生きようとすると決して見えてこない、組織の隅っこや社会の盲点が、主人公の目を通して浮かび上がってくるスローライフのすすめ。内田監督をはじめとする『ミッドナイトスワン』チームが、またしてもオリジナルの強みを示してくれた。今の日本に必要なのは、こんな優しい視点なのかもしれない。
そして、警察音楽隊を侮るなかれ。筆者は偶然、昨年9月に88歳で亡くなったフランスの国民的名優、ジャン=ポール・ベルモンドの国葬で、棺が担がれて行く際に、フランス軍楽隊がベルモンドの代表作『プロフェッショナル』のテーマを演奏し始めた途端、葬儀に列席していたVIPや一般ファンが号泣する様子を見ていたので、この設定がリアルに響いたのだった。
警察音楽隊についてはあまり知りませんでしたが、この作品を観て少しは知ることが出来たような気がします。
2022-144