「ミッドナイトスワン」の内田英治監督が阿部寛を主演に迎えたヒューマンドラマ。警察音楽隊のフラッシュモブ演奏に着想を得た内田監督が、最前線の刑事から警察音楽隊に異動させられた男の奮闘をオリジナル脚本で描き出す。部下に厳しく、犯人逮捕のためなら手段を問わない捜査一課のベテラン刑事・成瀬司。高齢者を狙ったアポ電強盗事件を捜査する中で、令状も取らず強引な捜査を繰り返した結果、広報課内の音楽隊への異動を言い渡されてしまう。不本意ながらも音楽隊を訪れる成瀬だったが、そこにいたのは覇気のない隊員ばかりで……。音楽隊のトランペット奏者・来島春子を清野菜名、サックス奏者・北村裕司を高杉真宙、捜査一課の若手刑事・坂本祥太を磯村勇斗が演じる。
異動辞令は音楽隊!評論(20)
阿部寛が慣れない音楽隊に異動になって巻き起こるドタバタコメディ・・・かと思ってたら最初からめっちゃシリアス展開。阿部寛演じる刑事は思ったよりワイルド系だし、関わってた事件は未解決のままだし、絶対これコメディ展開になんないじゃん!
そのままのシリアスな感じで笑いなんか一切なく物語は進んでいくのですが、ちゃんと例の事件が絡んでいったり、警察音楽隊という部門が活かされたストーリーになっていてとても面白かったです。阿部寛のドラムうまっ!
阿部寛が出ると大袈裟なんだけど演技に引き込まれてしまう。最初はぎこちなかったドラムも様になっていって娘とのセッションなんかいい感じでほんわか出来た。
トランペット担当の春子役・清野菜名はあまり母親っぽくはなかったけど、爽やかで良かった。
サックスの高杉真宙も最初は嫌な奴かと思わせて、だんだん熱くなってくるところも良かった。
成瀬の娘役・見上愛が小松菜奈に少し似てて、ギター演奏がカッコよくて可愛かった。
内田英治監督が警察音楽隊のYouTube動画を見て着想を得たという本作は、犯罪者を追う刑事や警察組織内の人間関係を描く刑事ものと、演奏も心もばらばらなバンドが転機を経て絆をはぐくみ猛練習して名演を聴かせるまでになる音楽ものという、2つの定番サブジャンルを足し合わせた欲張りなドラマになっている。オリジナル脚本も手がけた内田監督の高い志は買うものの、いかんせん2時間弱の尺ではどちらの要素も十分に描き切れたとはいえず、物足りなさは否めない。
ただし、音楽隊メンバーの俳優らはほぼ全員が演奏未経験(例外は渋川清彦で、俳優業のほかにバンドでドラマーとして活動しているとか)だったにもかかわらず、阿部のドラムをはじめ各自が楽器を猛特訓し、演奏シーンの演技の吹き替え(手元の映像だけミュージシャンの実演に差し替えること)をしないレベルにまで上達したという。そんな俳優らの努力が、楽隊がまとまってきてからの演奏シーンの迫真性に貢献している。一方で、成瀬の娘を演じた見上愛は実際にバンドでギターを弾いた経験があるそうで、スタジオのシーンでは実際に彼女が演奏した音が使われたとか。
刑事ものの側面では、特殊詐欺を取り上げた現代性は評価するが、大詰めの捕り物ではコメディに寄せたことで、そこまでのリアルさ、シリアスさが損なわれてしまったのが惜しい。
主人公だけでなく脇の人物らもキャラが立っているので、将来は同じ世界観で(可能ならキャストも同じで)連続ドラマを作ったら良いのではと思う。近年増えている一話完結型のお仕事ドラマにして、毎回違う脇キャラにスポットを当てつつ、事件を解決したり、演奏がらみの波乱万丈があったり。映画と同じ筋をたどるのでもいいし、スピンオフ的な裏エピソードの積み重ねでも、後日談でもいい。俳優たちが苦労して習得した演奏スキルも活かせるし、映画で感じる物足りなさを解消してくれるのでは、と勝手に期待している。
とまあここまで、レビューの見出しと無関係な内容になってしまったが、テレビで見た本作を紹介する番組によると、ある場面で清野菜名が発する「嫌な奴!」は、もともと脚本になく、現場で急きょ追加されたという。清野は10月公開の実写版「耳をすませば」で月島雫役、そしてアニメ映画のほうで月島雫は天沢聖司に馬鹿にされて「ヤな奴、ヤな奴!」と怒る台詞がよく知られる。“耳すま”つながりを意識して入れたネタだとしたら、ちょっと楽しい。
泣きのシーンと笑いのシーンの対比が良く出ていた。