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クーリエ 最高機密の運び屋評論(19)
胸が熱くなりました。
ペンコフスキーが命を賭けて、何を成し遂げたかったのか。
我々観客は彼の目的が正しいものであると、今だからこそ確信を持って言えるわけです。
だからこそ私はウィンがペンコフスキーに吉報をもたらすシーンに胸が熱くなってしまいました。
史実物、スパイ物としても王道ですし、私自身は友情物語として惹かれました。
何気なく映る食事演出もさりげなくグッドです。
この手の映画だと、史実描写やアクション描写、愁嘆場などをモリモリにしがちな所を、抑え目にし、2時間を切る尺に収めるタイトな語り口も良いです。
両国政府や無謀な指導者達に対する、一歩引いた目線、何なら批判的な目線も好感です。
また、主演のカンバーバッジと、もう1人の主演であるニニッゼ、この2人の演技アンサンブルの味わい深さだけでも、この映画を見る価値は十分にあります。
本作の時代背景は冷戦時代ではありますが、作中から伝わる切迫さ、核の脅威は、中国や北朝鮮に脅かされつつある現代の日本においても無縁ではないでしょう。
2人の主役をはじめとする登場人物に胸を打たれるのは、こうした事情もあるのかな。
この作品の情景が今日的なものとも言える状況は残念としか言いようがありませんが…。
スパイものですが実話をもとにしているので生々しくて、ピリピリした状態がずっと続きます。
中盤あたりでようやく少し緊張感が和らぎますが、そこから映画の雰囲気がガラッと変わります。
登場人物の風貌も変わるので、まるで別の映画を見ているよう。
カンバーバッチの役者魂も垣間見れました。
余談ですが、、、
個人的に一番リアルだなぁと感じたのは、カンバーバッチの息子役の子役が不細工だったこと。
カンバーバッチの子供で美形は嘘くさいですからね。
子役の配役は見ていて違和感ありませんでした。
筒井康隆の小説の主人公のようにスパイに憧れ、ワシントンDCにあるスパイミュージアム(FBI本部の隣にありました)にも行ったことのある僕ですが、本作を観てやっぱりスパイになるのは止めようと思いました(もちろん冗談です)。モスクワでKGBに捕まる場面は絶望的な気持ちに共感しまくりです。ジェームス・ボンドやキングスマンのハリー・ハートと異なり、同じイギリス人のスパイでも身体に忍ばせた秘密の武器を使用して、素早く危機を脱することは普通できませんよね。納得です。
ただ「最高機密の運び屋」という邦題は正直ダサいです。もう少しカッコよい題名にすべきだったと思います。
主役である、素人ながら運び屋を務めたグレヴィル・ウィンをベネディクト・カンバーバッチが演じている。冒頭、普段よりもふくよかだったベネ様が、終盤には痛々しいほどやせ衰えて、いったいどれほど過酷な肉体作りをしたのかと妙に感動した。いやしかし、あの姿を見てしまっては、今後まかり間違ってスパイに成る機会が訪れたとしても、絶対にやりたくないものだと思う。
物語は中盤から緊迫の度を増していく。東西冷戦のさなかのスパイ活動だから、それはもう想像の上を行くような緊張感の連続だったのだろう。実話をベースにしていると分かって観るから尚更である。あまりこの言葉を使うのは好きではないが、文字どおりの「事実は小説より奇なり」。
一方で現代と違い、スパイ行為も防諜活動もアナクロな手法に頼らざるを得ない時代の話ということに改めて格差の念を覚える。たった60年前のことなのに、何たる不便なことか。この10年後くらいに自分は生まれているのだけど、その目から見ても実に限られた手段で危険なやり取りをしていたのだなあと感心する。
この映画のベースになった実話が、人類史上最も破滅に近づいた機器を救ったのだと思うと、今の平和がありがたく感じられる。
なお蛇足ながら映画自体の話をすると、音楽が素晴らしく、また機能美溢れるソビエト連邦の建物や調度に目を奪われた。飾り気はないがあれは良い。